最近2回目の鑑賞。そして号泣。
84回アカデミーでは6部門ノミネートされたり、役者としてのブラピが再評価されたり、ジョナヒルの新たな魅力を引き出したりと、話題には上がったものの日本の観客の反応は賛否両論分かれたらしい。
僕は泣いたくらいだから断然、賛の方。
特に野球やってたわけでもないし野球観戦も1回しか行ったことがない。それが逆に良かったのかもしれない。
本作は、「野球映画」ではあるものの、よくあるような、最初はダメチームだったけど必死に練習して最高の結果になりましたといった試合そのものに対してとか、その過程の美しさを描いているわけではない。
だから、そういう「野球映画」もっと言えば「スポーツ映画」を求めているとしたら、期待を裏切られるかと。
じゃあなんなんだよ、ってのを軽めにネタバレしつつ以下に。
概要
基本情報
2011年 アメリカ
原作:
マネーボール:不公平なゲームに勝利する技術(Moneyball: The Art of Winning An Unfair Game)
マイケル・ルイス(Michael Monroe Lewis)
監督:
ベネット・ミラー(Bennett Miller)
原案:
スタン・チャーヴィン(Stan Chervin)
脚本:
スティーヴン・ザイリアン(Steven Zaillian)
アーロン・ソーキン(Aaron Sorkin)
キャスト:
ブラッド・ピット(Brad Pitt) / ビリー・ビーン
ジョナ・ヒル(Jonah Hill)/ ピーター・ブランド
フィリップ・シーモア・ホフマン(Philip Seymour Hoffman)/ アート・ハウ
ケリス・ドーシー(Kerris Dorsey)/ ケイシー・ビーン
ロビン・ライト(Robin Wright)/ シャロン
クリス・プラット(Chris Pratt)/ スコット・ハッテバーグ
スティーヴン・ビショップ(Stephen Bishop)/ デヴィッド・ジャスティス
解説
アメリカのプロ野球、メジャーリーグの貧乏球団を独自の理論で常勝球団に育て上げた実在の男の半生を、ブラッド・ピットが演じる感動的なヒューマンドラマ。球団のゼネラルマネージャーが独自の理論である「マネーボール理論」を推し進め、貧乏球団を常勝集団に生まれ変わらせていく過程を描く。監督を、『カポーティ』のベネット・ミラーが務め、『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキンが脚本を担当。ブラッドとフィリップ・シーモア・ホフマンやロビン・ライトなど実力派キャストによる演技合戦に期待。
あらすじ
元プロ野球選手で短気な性格のビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、アスレチックスのゼネラルマネージャーに就任する。チームはワールド・チャンピオンになるには程遠い状態で、優秀な選手は雇えない貧乏球団だった。あるとき、ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)というデータ分析にたけた人物との出会いをきっかけに、「マネーボール理論」を作り上げる。しかし、「マネーボール理論」に対し選手や監督からは反発を受けてしまい……。
主人公は球団のゼネラルマネージャー
ブラピ演じるビリービーンは、カリフォルニア州にあるオークランド・アスレチックスの野球チームのゼネラルマネージャー。
アメリカのスポーツ界のゼネラルマネージャーが何をするかっていうのをwikiから引っ張ると
チームのほとんどの権限はGMが有し、チームの編成や方針の決定、選手や代理人との契約交渉、トレードやドラフトなどの新人獲得のとき誰を獲得するか、あるいは放出するか、誰をマイナーリーグなどの下部組織から昇格させるかなど多岐にわたる。それらを球団オーナーから用意された予算の範囲内でこなしてゆく。
こんな感じで全ての責任者みたいな立ち位置。そんな彼が何に悩んでいるかと言うと、お金がないから良い選手が他に獲られるということ。
日本でもあると思うけど、メジャーリーグの市場の大きさは半端ない。せっかく良い選手に育てても、お金を積まれて移籍してしまうと。
そんな状況でどうやって勝てば良いんだってやきもきしてる時に出会うのが、ジョナヒル演じるピーターブランド。
この人が使っていたセイバーメトリクス理論。選手のデータから統計学的にどういうチームが良いかを導き出していく手法。
特に本作では(というかビリービーンは)、出塁率を重要視して、過小評価されているコスパの良い選手で固めよう、ってな方針でいっている。
セイバーメトリクスと原作とビリービーン
もう少しだけ掘り下げる。
セイバーメトリクスは1970年代にビル・ジェームズ(Bill James)という野球ライター兼野球史研究家の人が提唱した理論。アメリカ野球学会の略称SABRからセイバーメトリクスという名前が取られている。
その人の1980年代の著書、Baseball Abstractシリーズというものがあって、その考え方を自身のチームの方針に活用したのがビリービーン。
アスレチックスを20連勝させたビリービーンを世界的に有名にしたのが、本作の原作となるマイケル・ルイス(Michael Lewis)の「マネー・ボール(Moneyball: The Art of Winning An Unfair Game)」。
原作も普通に面白いらしい。
マイケルルイスは元々経済学を学んでソロモンブラザーズっていう投資銀行に勤めている。その経験を活かしてモーゲージ債市場について書いた本でノンフィクション作家としてデビュー。
ちなみに2010年に発表された「世紀の空売り(The Big Short: Inside the Doomsday Machine.)」も「マネー・ショート 華麗なる大逆転」というタイトルで映画化されている。こちらもブラピが製作にも入っている。
若干ややこしい。
製作関係の話
2004年に原作の権利をコロンビアが買って、スタンチャーヴィンが脚本を書いた。ブラピが決まった頃にスタンチャーヴィンは降板、代わりにスティーヴザイリアンが脚本をリライト。デヴィッド・フランケル(David Frankel)が監督に抜擢される。「プラダを着た悪魔」とか、「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」とか撮った人。
が、すぐ後にスティーヴン・ソダーバーグに変更。ソダーバーグは、今まであったような伝統的なスポーツ映画ではなくて、選手たちにインタビューするとかそういうのを入れようとしたらしい。
その方向で既に撮り始めていたみたいだけど、結局やっぱりドラマ色を強くしようという方針になった。でも、ビジネス書みたいな統計理論の本をどうやってドラマっぽくエンターテイメントにするのか、ということで任されたのが、アーロン・ソーキンと。
アーロンソーキンは、フェイスブックの創業者マークザッカーバーグについて描くソーシャルネットワークの脚本を担当した人。
ソーシャルネットワークの原作も「facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男(The Accidental Billionaires)」というノンフィクション作品。※実際には原案レベルで、出版社に持ち込まれた10ページくらいの企画書を元にしているらしいけど。
という流れがあって、ドラマ的に素晴らしい作品になりました、と。
事実と映画的なウソ
原作のマネーボールがノンフィクション作品だから、基本的には事実を基づいた物語となっている。
ビリービーンが期待されてお金を稼ぐためにメジャーリーグに入ったとか、アスレチックスが20連勝したとか、イライラしてロッカールームを暴れるとか、試合を見ないでトレーニングしてるとか、ボストンレッドソックスから最高額のオファーがきたとか、本当のこと。
一方で、彼は離婚をしているけども再婚もしている。それは特に必要ないから映画の中では特に描かれていない。
ブラピ演じるビリービーンは指輪をしていたり、復縁した奥さんとのシーンも撮影はされたみたい。どうもBlu-ray版には特典映像的なものとして収録されている模様。
ちなみに元奥さんシャロンの新しいパートナー、アラン役は、スパイクジョーンズだった。
娘の歌う歌
劇中でお涙頂戴ばりに出してくる娘ケイシーの弾き語りシーン。不服ながらも最後の歌を聞くシーンで歌詞を見つつ僕はやられた。
この子が歌う歌。元ネタというか、曲自体は、レンカ(Lenka)の “The Show” という曲。
娘ケイシー役のケリスドーシーが、本作のオーディションでこれを歌ったらしい。それをベネットミラーがめちゃくちゃ気に入って、娘役に抜擢するばかりか映画内にも使っちゃったと。
実際はこの曲、2008年に発表されていて、映画の時代的には2002年頃だから、合ってはいない。「でも俺は使う」ということだから相当な入れ込みっぷり。
実際僕もやられました。
kerris Dorsey版のThe Showはここで聞ける。
どうでも良いけど、レンカはオーストラリア出身だからか、can’tの発音がすごく気になる。
ピーターブランド
ジョナヒルが演じたピーターブランド。この人にもモデルがいて、当時のビリービーンの右腕だったポール・デポデスタ(Paul DePodesta)という人。この人がビリービーンにセイバーメトリクスを持ち込んだと言われている。
映画化に際して、ポール・デポデスタがかなりの協力をした模様。でも、彼の役をやるのがジョナヒルだということを知って、
こいつを使うなら俺の名前は出すな
ということで名前がピーターブランドになったと。なんともひどい話だ。
ジョナヒルを降ろせとも言われたけど、そこはプロデューサーでもあったブラピが助けた、って町山さんが言ってた。
名前は変わったものの、映画製作のサポートは続けた模様。実際はこんな感じの人。
ま、確かに当時のジョナヒルは童貞役やったり、体型的にもめちゃくちゃムチムチだったりするしね。でも本作で、こういう役もできるのか、ということで、ブラピと揃ってアカデミーノミネート。
彼は、「今まで見えなかった新たな魅力を引き出してくれた、この状況こそセイバーメトリクスだ」的な発言もしているっぽい。
やりたいことか、お金か
ビリービーンはボストンレッドソックスからの超高額オファーを蹴ってアスレチックスに残った。
「二度と金によって人生を左右されまいと心に決めたから」
と言って。
その辺の美談をどうとるか。僕がこの映画を見て泣いたのは、その判断をした姿を見てということではない。
もちろんその描写があったという前提も含めてではあるけれど、お金を取ってメジャーに行ったという過去があり、離婚をして、チームの選手とのやり取りがあって、セイバーメトリクス導入で周りからボロクソに非難されて、、
で、高額オファー。
ジョナヒルが見せてくれた一本のビデオのように、目の前のことを必死にやってると一瞬遠くが見えなくなるようなこともあるけど、冷静になって周りを見渡すと、思いがけないくらい高いところまで来ていたり、思いがけない結果がきたりする。
自分にとってその必死になれるもの、情熱を捧げられるものは何なのか。
そこのジョナヒルとの絆的な描写も良かった。
良かったし、さらに追い討ちをかけられたのは娘からのメッセージソング。
宇多丸師匠も言っていたけど、セイバーメトリクスという科学的で合理的なことを導入しているにも関わらず、一々過去を思い返したり引きずってジンクスを信じていたり、そのビリービーンの中の相対する感情。
どっちか一方に100パーセント振り切っているのはなかなか難しい。そのあたりが人間味があって弱さが見え隠れして、えぐられる。
孤独感の中で娘には全部見透かされている感。
死んだ。
そして本作に胸を打たれた僕は最近、
お金に釣られて転職をしている
ということで
相変わらず最高だった。
同じく事実を元にした作品だからか、imdbのMore Like Thisにはダラスバイヤーズクラブが出てきた
あとはやっぱりソーシャルネットワーク
とかマイケルルイスの別の作品を原作にしていて、ブラピも出ているマネーショート
なんかもおすすめです。
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