概要
基本情報
1994年 アメリカ
監督:
ケヴィン・スミス(Kevin Smith)
キャスト:ブライアン・オハローラン(Brian O’Halloran)/ ダンテ・ヒックス
ジェフ・アンダーソン(Jeff Anderson)/ ランダル・グレイヴス
マリリン・ギグリオッティ(Marilyn Ghigliotti)/ ヴェロニカ
リサ・スプーノアー(Lisa Spoonauer)/ ケイトリン・ブリー
ジェイソン・ミューズ(Jason Mewes)/ ジェイ
ケヴィン・スミス(Kevin Smith)/ サイレント・ボブ
スコット・モシャー(Scott Mosier)/ ウィラム・ジ・イディオット・マンチャイルド
解説・あらすじ
コンビニで働く22歳のダンテ・ヒックス。今日は仕事が休みなので、朝寝坊をして、午後はホッケーをして1日を過ごすはずだった……。が、早朝から店長の電話でたたき起こされ、コンビニの早朝シフト出勤を頼まれる。店では、立腹した客から煙草を投げつけられてはショックを受け、忠実なガールフレンドと思っていたベロニカの過去の性的体験を聞かされ、高校時代の元彼女、ケイトリンの婚約を知って打ちのめされる……。当時24歳のケヴィン・スミスが仲間を集めてつくった青春コメディ。
批評と受賞歴
5 wins & 10 nominations
批評
- Rotten Tomatoes 88 % 7.4 / 10
- Roger Ebert:3 / 4
- Metascore:70
- IMDb:7.8 / 10
人生を変えた1作目
本作を見て、人生に対しての考えた方や向き合い方を変えたと、そんなレビューがあった。ざーーーーっとレビューを見て、大多数を占めたのは、
めちゃめちゃ面白い
ということ。低予算なので、素人の役者と、限られたロケのリソース、機材。そんな中よくこんな面白いコメディ撮れたなと。当時24歳のケヴィンスミス、その才能を評価する人が多かった。
一般・批評家問わず評価され、実際にランキング系にもリストアップされている。
- Empire Magazine’s 50 Greatest Independent Films:4
- Empire The 50 Greatest American Independent Movies:19
- Empire 500 Greatest Movies of All-Time:361
- Bravo Top 100 Funniest Movies:34
- Entertainment Weekly’s The Cult 25: The Essential Left-Field Movie Hits Since ’83:13
- Entertainment Weekly’s 25 great comedies from the past 25 years:21
らへん。
個人的な感想としては、抱腹絶倒のコメディとは思わなかったけど、各小話は面白いし、会話の内容も惹かれるものがある。そうそう。あらすじ見てわかる人はわかるだろうけど、本作はいくつかのエピソードに分かれている。
9つのブロックに分かれていて、あの有名なダンテの「神曲」をモチーフにしている。ということもあって、主人公にダンテと名付けられたと。感覚的には9以上あるような気がしなくもないけど。
なんとなく、白黒とエピソードが分かれるという意味では、「コーヒー&シガレッツ」と同じ匂いがする。
その各エピソードの内容は、元カノ、元カレの話、映画の話、客の批判と、そんなごくごく普通の小話の連続だけども、会話の安っぽさ含め、なにかと皮肉ってくるのがまた良い。1つ1つのエピソードは大したことない感じがするのに、終わってみると、登場キャラクターのファンになるという作り。さらっと言ってる割に意外と心に刺さってくるセリフなんかがあったりする。
変わっているようで、変わってない。変わっていないようで、変わっている。リアルだけど、リアルじゃない。日常のありふれた感じを描くけど、微妙に逸脱して、外れて、というそのコメディ感。良い。
人生を変えたというのは、ケヴィンスミス監督にとっても。なぜならこの作品が1作目であり、ケヴィンスミスの未来は切り開かれたから。
大学辞めて余ったお金と、コミックブックを売ったお金で作った映画がサンダンス映画祭で好評。それは舞い上がるわ。でも、低予算で、2人の若者が会話するだけで、周りもほとんど初心者が演じるにも関わらず、こう面白くなる、という事実は、クリエイティブな人たちにも夢と希望を与えるんじゃないかと。
そんな突如現れた多くの心を奪っていった本作、ネタバレありつつ参ります。
ケヴィンスミスの始まり
前段でも少し触れた、ケヴィンスミスの第1作目の本作。24歳にして本作を撮った彼は次の道が拓けたわけだけど、本当になかなか重要な位置付けである。
まさにケヴィンスミスの話だなと。このままで良いのかなって思いながら(そう思っていたかは知らないけど)行動に移す。そんなフワフワした中作ったのがクラークスだから。
元々は、リチャード・リンクレイターの1991年のスラッカー(Slacker)にインスパイアされて、クラークスを作ろうと思ったらしい。ダンテに自分自身を投影させたのはそうなんだけど、ランダルは、友達であるブライアン・ジョンソン(Bryan Johnson)をモデルにしているとのこと。彼は以降のケヴィンスミス作品にちょこちょこ関わっている。
予算の話
予算のない中どう撮ったかというと、ロケ地になったコンビニは、ケヴィンスミスが実際に働いていたコンビニで、夜の時間しか借りられなかったから、シャッターは閉じたままの設定になったと。そしてケヴィンスミスは撮影中1日1時間未満の睡眠だっという噂。ちなみにキャスト約50人の内、48人は初クレジットというほぼ素人を起用しているらしい。
そんな苦行のおかげか、予算27,000ドルに対して、アメリカでの興行収入は3ミリオンドル。50劇場にも満たないのに。というとんでもない成功例となった。
ケヴィンスミスの世界観
以降のケヴィンスミス作品を楽しむ上でも、本作が重要。ケヴィンスミスが作った世界観、ユニヴァースがこれを基点に展開するから。
ケヴィンスミスのユニヴァース。って仰々しい感じになるけど、マーベルのマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)とか、DCコミックスのDCエクステンディッド・ユニバース(DCEU)のような感じで、
View Askewniverse
と言う世界を作っている。ストーリーラインとかの直接的な続編ではないにしろ、世界や登場人物が共有される。名前の元になっているのは、ケヴィンスミスのプロダクション、”View Askew” からだね、きっと。同じ世界観で、同じ俳優さんが、別の役を演じていたり、ジェイとサイレントボブに至っては、シリーズ中ずっと同じ人が同じ役を演じている。
直接の続編
直接の続編は、クラークス2。
クラークス3も制作の計画はあった。実際、クラークス2のプレスの時に、「3をやるなら2人(ダンテとランダル)の40,50代を描くけど、ジェイとサイレントボブが出るかは分からない。その歳でコンビニの壁に寄っかかってるのはちょっと虚しいしね。」みたいなことを言っていたらしい。そしてクラークス3を以って監督業の引退宣言をしている。
と、思いきや、2017年にはクラークス3はないことを発表。ランダル役のジェフアンダーソンが出演しないと決めたらしい。
3のプロジェクトの変遷はwikiにそれなりに書いてあるので気になる方はそちらを参照ください。
別バージョンと派生作品
本当は鬱展開だったエンディング
公開されたラストシーンは、ランダルと喧嘩して仲直りという内容だったけど、実はまだ続きがあった。
ランダルが店を出た後、レジの確認をしているダンテ。誰かが店に入ってきたけど、ダンテは顔を上げない。その入ってきた人がダンテを銃で撃って殺して、レジからお金を盗っていった。というもの。
これが当初使おうとしたエンディング(っぽい)。
アップされてた動画はここまでだったけど、脚本上は、まださらに続きがありそうな書かれ方。
エンドクレジットの後?に、最後の最後で、また客が入ってくる(ケヴィンスミスらしい)。でも誰もいなくて、タバコを盗んで去っていく。
アップされている脚本。
ダンテが殺されるラストシーンは、帝国の逆襲へのオマージュだとか、ケヴィンスミスが終わらせ方に困って考えたとか言われている。本作公開前にこの鬱なラストを見たジョン・ピアソン(John Pierson)からアドバイスをもらって、最後のカットは削除したとのこと。
アニメとコミックブックとその他
2000年からアニメが始まった。”Clerks: The Animated Series”。
絵はこんな感じ
元々、1995年に、テレビドラマのパイロット用にケヴィンスミスが脚本を作ったんだけど、あまりいい評価を得られなかったようで、アニメ版に使われたと。
コミックブック版は、いくつか出版されて、
- Clerks: The Comic Book
- Clerks: Holiday Special
- Clerks: The Lost Scene.
と、結構短いスパンで出版されている。
それから、これとは別で、クラークスのほんとの続編への前段として、 “Clerks 1.5” というのも計画していたらしい。
上で挙げたエンディングやら何やらは、何度か販売されているクラークス10周年記念、15周年記念等のなんちゃらエディションのDVDに入っているとのこと。
その他、派生というか何というか。2016年に、クリストファー・ダウニー(Christopher Downie )とブレット・マレー(Brett Murray)がケヴィンスミスとクラークスの伝記映画を作成している。
Shooting Clerks
その他の小ネタ
MV
ソウル・アサイラム(soul asylum)というバンドのファンだったケヴィンスミスは、彼らと仲良くなった後に、楽曲提供を受けているらしい。その内の一つ、
can’t even tell
なんて日だ
今更だけど今更すぎてなんの感情もなく言える。言いたかったというか、言わないといけない気がした。この映画を観たら。
I’m not even supposed to be here today!
何回も言うこの言葉。日本語訳だと
「今日は休みだったのに!」
だったっけな?うん。なんて日だ、って訳じゃないのはそうなんだけどね。ニュアンス的にはそういうことでしょう。こんなはずじゃなかったと、人のせいにする気満々のコンビニ店員。でも、自分はどうかと問われると。結局、今の自分がいるのは、今までの自分の行動の結果でしょうと。
そしてランドルが言うセリフ、
「じゃあ、なんで今こんなコンビニで店員やってんだ?」
うーん。こういうところに皆んなやられたんだろうきっと。ダンテの気持ちが分からなくない、と言うかむしろ分かるんだけど、でも、分かっちゃダメなところが、自分自身が批判されているような気がして、ね。
休みなのに出勤して、なんだかんだで働くダンテ。サボったり客の対応がクズだったりするランダル。自分を過大評価して仕事を嫌って周りを批判して自分が見えなくなっているダンテ。自分があって自分がどんな人なのか分かっているランダル。
自分はダンテじゃない、って思いたいけど、少なからずダンテ要素はあるはず。そこがまた皮肉になる。でもそれによって自分は次に何をすべきか、考えさせられることになる。
最悪だ、と嘆く。。
ということで
売人のばあちゃんの言葉、「皿が良くても空じゃ意味ない」でふと思い出した
コーヒー&シガレッツも引き合いに出したけど、ジム・ジャームッシュ作品もどことなく雰囲気似ていたり。ストレンジャーザンパラダイス
ケヴィンスミスが元にしたスラッカーを撮ったリチャードリンクレイターのカルト青春映画、バッドチューニング
なんかもおすすめです。
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