現実の世界と幻覚の世界、それが入り乱れる不思議な世界観。
孤独と繋がり、現実と理想、そんな心の闇を描くダーク寄りなテーマ。
これを表現する映像とエマストーンとジョナヒルの最強コンビ。ちなみに2人の共演はスーパーバッド以来。(おそらく)
これは素晴らしい。
全部が上手いこと融合して僕好みの作品に仕上げてくれている。毎回いろんな世界を見せてくれるのも単純に映像として面白い。
夢と現実、揺れ動く世界、そういう意味では、デヴィッドリンチ監督作品が好きな人は好きかもしれない。個人的に本作を見ながら思い出していたのは、他に未来世紀ブラジル、サンセット大通り、コングレス未来学会議、あとは何故か分からないけどブレードランナー。
1エピソード3,40分程度で全10エピソード。さくっと観られて(一応)完結するのはちょうど良い。
ただ短い分、話の進め方も急になったり各所に散りばめられた伏線も注意して見ようとすると割と頭フル回転。そういうところも面白いんだけれども。
きっと知らない方が楽しめるし何より解説できる力もないからそんなにはネタバレはしないで小ネタ含めて参ります。
概要
基本情報
2018年 アメリカ
監督:キャリー・フクナガ(Cary Joji Fukunaga)
脚本:パトリック・サマーヴィル(Patrick Somerville)
キャスト:
エマ・ストーン(Emma Stone)/ アニー・ランズバーグ
ジョナ・ヒル(Jonah Hill)/ オーウェン・ミルグリム
ジャスティン・セロー(Justin Theroux)/ ドクター・ジェームズ・マントルレイ
ソノヤ・ミズノ(Sonoya Mizuno)/ ドクター・アズミ・フジタ
サリー・フィールド(Sally Field)/ グレタ・マントルレイ
ガブリエル・バーン(Gabriel Byrne)/ ポーター・ミルグリム
ジュリア・ガーナー(Julia Garner)/ エリー・ランズバーグ
ハンク・アザリア(Hank Azaria)/ ハンク・ランズバーグ
ビリー・マグヌッセン(Billy Magnussen)/ ジェド・ミルグリム
ジェマイマ・カーク(Jemima Kirke)/ アデレード
神田瀧夢 / ロバート・ムラモト
ジェフリー・カンター(Geoffrey Cantor)/ ミルグリム家の弁護士
あらすじ
母との間に確執を抱く医師と、複雑な感情を持つコンピューターが絡んだ怪しげな臨床試験でつながる2人の男女。世界はやがて、正気と狂気の狭間で揺らぎ始め…?
元ネタ
2014年のノルウェーの同名テレビドラマシリーズが元になっている。けど、元ネタと言っても緩めにベースにしている程度らしく、下の予告編を見ても、割とコメディ感が強そう。
主人公のEspenさんが脳内で繰り広げる別の理想の自分。そういういろんな世界を見せられるところにキャリーフクナガ監督は惹かれたということか。
トラウマに向き合う
幻覚を見ることで過去のトラウマと向き合っていく。現実世界でのオーウェンの過去、現実世界でのアニーの過去。経験したことが幻覚の世界に反映されていく。
このオーウェンの家族、ミルグラム家がなかなか腐敗している。それがトラウマとなってオーウェンの幻覚の中にも度々登場。オーウェンの父もそうだけど、兄のジェドが特に重要。ジェドとオーウェンの関係、それが統合失調症の幻覚として、グリムソンとして現れてくることになる。
たまに登場する清掃車。何なんだろうって思ってたんだけど、ミルグリム家はあの清掃車を作っている会社だった。エピソード1の冒頭でアニーがお金を盗るシーンの新聞の見出しにジェドの事件について触れられている。
BLADDERGATE
MILGRIM POOP BOT EMPIRE IN PERIL
BLADDERGATEはきっと、ジェドが告発された内容を表している。
こういう、こまかーいところを見ていくと、とんでもない量の小ネタが出てきそう。
ルービックキューブとドンキホーテ
こちらもエピソード1の冒頭。ミルグリム産業の会社の前のゴミ捨て場からそれぞれが拾い上げたものは、ルービックキューブとドンキホーテ。(ルービックキューブはアニーが投げたものをオーウェンが拾う)
キャリーフクナガ監督は、ルービックキューブに重要な意味を込めている。それは、やり方が分からない(上手くやる方法が分からない)人にとってはルービックキューブは全然意味不明なものだけど、知っている人からしたら、すぐに解決できてしまうということ。
ドンキホーテの方は、そのままなのか。現実と妄想の世界の区別ができなくなるという世界観は本作のテーマと一致している。
オマージュ関係
結構オマージュしているところもある模様。意識的にやっているかどうかはおいといて似ているものも。
赤ちゃん泥棒
キツネザル奪還エピソードは、コーエン兄弟の赤ちゃん泥棒(Raising Arizona)。
ロードオブザリング
エピソード7,8のファンタジー回は見た目通りロードオブザリング
博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
スノッリ回はキューブリックの博士の異常な愛情…から。意図的にやるつもりはなかったようだけど、国連の問い詰められる所の雰囲気なんかは似ているらしい。
卒業
個人的に思ったのは、ラスト近くのオーウェンとアニーが車に乗っているシーン。真正面から捉えた2人の顔が、楽しくもあり、微妙に神妙な顔にも見えたり。
エターナルサンシャイン
記憶を消そうとする中で2人の繋がりを見つけていく感じからエターナルサンシャインを思い出された方もいた模様。
キャリーフクナガ監督自身の作品
ここは完全に小ネタの部類だけど、ジェームズ初登場の、頭を解放して自慰行為中のシーン。
ここでアズミがチラチラ部屋の中を見ていると、ジェームズが持っているポルノが散らばっている。そのタイトルがキャリーフクナガ監督が携わった作品のパロディになっている。
- Jane Eyre(ジェーン・エア): Jane Derriere
- Beasts of No Nation(ビースト・オブ・ノー・ネーション): Beasts of Urination
- Sin Nombre(闇の列車、光の旅): Sin Number 3
- True Detective(TRUE DETECTIVE/二人の刑事): True Erection
True Detective関連で言うと、マシューマコノヒーが使ってたマグカップ(Big Hug Mug)は本作でも使われている。
幻覚から抜け出せたのか
この手の作品でほぼほぼ出てくる問題は、最終的に現実世界に本当に戻ってきたのか、ということ。
本作でも然り。ファンが、まだ幻覚の世界にいるんじゃないかという根拠にしているのは以下のような部分。
・メインフレームの部屋のパスワードが5678。これはキツネザル回で使ったパスワードだけど、アニーとオーウェンは部屋のパスワードなんて知らないはず。
・最後のエピソードでジェームズが乗り込もうとした車のナンバー(O19 91A)はキツネザル回でオーウェンとアニーが乗っていた車のナンバーと同じ。
・オリヴィアと結婚して7人の子供ができる回では、子供にアジアやアフリカという大陸の名前をつけていた。ラストエピソードではグレタがジェームズに「7大陸で本のツアーがあるの」と言っている。
個人的には、最後の最後でオーウェンの「Annie, I’m a Hawk!」のセリフが入ってきたことで、またその疑惑が強まっているんじゃないかと思っている。
その他の考察としては、GRTAに入った人たちはもはや記憶を共有できるのではないかということ。
でもまぁ正直、幻覚だったとしてもその世界と向き合って真剣に生きていく覚悟を決めたのならそれが現実、ということで良いんじゃないか。逃げてるわけではないし。
ということで
色んなところに興味を持ち始めたら何度でも楽しめる本作。
デヴィッドリンチ監督のマルホランドドライブ
現実のものと捉えてしまう映画の最高峰と言えばサンセット大通り
ラストが論争になった未来世紀ブラジル
なんかもおすすめです。
コメント