概要
基本情報
2001年 アメリカ・フランス合作
監督:デヴィッド・リンチ(David Keith Lynch)
キャスト:
ナオミ・ワッツ(Naomi Ellen Watts)/ ベティ・エルムス
ローラ・ハリング(Laura Harring)/ リタ
アン・ミラー(Ann Miller)/ ココ
ジャスティン・セロー(Justin Theroux)/ アダム・ケシャー
ダン・ヘダヤ(Dan Hedaya)/ ヴィンチェンゾ・カスティリアーニ
ロバート・フォスター(Robert Forster)/ ハリー・マックナイト刑事
レベッカ・デル・リオ(Rebekah Del Rio)/ レベッカ・デル・リオ
ミシェル・ヒックス(Michele Hicks)/ ニッキー
メリッサ・クライダー(Merissa Crider)/ ウィンキーズウェイトレス
リー・グラント(Lee Grant)/ ルイーズ・ボナー
メリッサ・ジョージ(Melissa George)/ カミーラ・ローズ
チャド・エヴェレット(Chad Everett)/ ウディ・カッツ
パトリック・フィッシュラー(Patrick Fischler)/ ダン
解説・あらすじ
ある真夜中、マルホランド・ドライブで車の衝突事故が発生。ただ独り助かった黒髪の女は、ハリウッドの街までなんとか辿り着き、留守宅へ忍び込む。すると、そこは有名女優ルースの家だった。そして、直後にやってきたルースの姪ベティに見つかってしまう。ベティは、とっさにリタと名乗ったこの女を叔母の友人と思い込むが、すぐに見知らぬ他人であることを知った。何も思い出せないと打ち明けるリタ。手掛かりは大金と謎の青い鍵が入った彼女のバッグ。ベティは同情と好奇心から、リタの記憶を取り戻す手助けを買って出るのだが…。
批評と受賞歴
カンヌ国際映画祭:監督賞受賞
セザール賞:際遊手外国映画賞受賞
全米映画批評家協会賞:作品賞受賞
ニューヨーク映画批評家協会賞:作品賞受賞
ロサンゼルス映画批評家協会賞:監督賞受賞
RogerEbert:4/4
RottenTomatoes:82%
わたしのあたまはどうかしている。
わたしのあたまはどうかしている
うんうん、僕の頭はどうかしているかもしれないけども。
これ、キャッチコピーね。こんな怖いキャッチコピーをつけられた本作品の監督は「カルトの帝王」ことデヴィッドリンチ。難解映画の監督として有名な彼の作品を観るには、今の自分の理解力のなさのままでは怖すぎると思って今まで観ずにいた。
でも観て思った。
意外とわかる、意外とわかるぞ。
と、思ったのは勘違いだったようだ。
オフィシャルサイトでも掲載されていたという、デヴィッドリンチ監督からの10個のヒント。
- 映画の冒頭に、特に注意を払うように。少なくとも2つの手がかりが、クレジットの前に現れている。
- 赤いランプに注目せよ。
- アダム・ケシャーがオーディションを行っている映画のタイトルは?そのタイトルは再度誰かが言及するか?
- 事故はひどいものだった。その事故が起きた場所に注目せよ。
- 誰が鍵をくれたのか?なぜ?
- バスローブ、灰皿、コーヒーカップに注目せよ。
- クラブ・シレンシオで、彼女たちが感じたこと、気づいたこと、下した結論は?
- カミーラは才能のみで成功を勝ち取ったのか?
- Winkiesの裏にいる男の周囲で起きていることに注目せよ。
- ルース叔母さんはどこにいる?
うーん。微妙。わかってるような分かってないような。。でも、そんな状態でも全くもって手が出ない、ということはない。そしてそんな状態でもめちゃめちゃ面白い。
ということはだ、これは ものすごい可能性を秘めている作品だということ(自分にとっては)。よくわからないものを繋ぎ合わせて観客にぶん投げて 「芸術です」 とかいってる作品とは違う。
パズルのピースがうんたらかんたらってミステリはよく言われるけど、ほんとそんな感じ。物、仕草、表情、態度、何でも細かいところにこそ注目して、何回も観て、この謎解きを大いに楽しんでほしいと思います。薦めといてなんだけど、自分は2回目はしばらく観ないかなぁ。
演出が怖いから。
ということで。前半ネタバレなし、後半ネタバレありで参りたいと思います。
アメリカ・フランス合作
元々はアメリカのテレビ局、ABCのテレビシリーズ向けにデヴィッドリンチ監督が脚本を書いていた。だけど最後の最後で却下されてお蔵入りになってしまっていた。監督もキャストも残念がってはいたけど、ローラハリングは「なんとかなるわよ」って言っていたらしい。
で、なんやかんやでフランスの Canal Plus って配給会社が出資して映画として世に出されることになった。
元ネタ
「サンセット大通り(Sunset Boulevard)」(記事へ)
そもそもマルホランドドライブって通りの名前で、サンセット大通りの北のほうに通っている。冒頭のシーンでふらふらとたどり着くのがサンセット大通りになっている。
デヴィッドリンチ監督自身も「ハリウッドのダークサイドを撮りたい」って言って、そもそも好きな映画に「サンセット大通り」を挙げているし、どのくらい好きかっていうとサンセット大通りで使われている車の実物を借りて、たった一瞬映画に出すために莫大なお金を払っているわけである。
あとセリフすらもオマージュで出ていた。ある人が「プールを手に入れた」的な発言をしてる。サンセット大通りでもオープニングのシーンで言ってたよね。というか至るところで似ている部分が多数ある。こういう比較対象があるとさらに面白く観れるかもしれないですね。
キャスト
主演級の人たちはさておき、あまり情報のない方々を少しだけ。
レベッカ・デル・リオ(Rebekah Del Rio)
クラブ・シレンシオで歌っている人だね。元々歌だけ使って映画に出演させる予定はなかったようだけど。
ミシェル・ヒックス(Michele Hicks)
夫はジョニー・リー・ミラー(Jonny Lee Miller)。トレインスポッティングのシックボーイ役。
チャド・エヴェレット(Chad Everett)
1970年代の「外科医ギャノン(Medical Center)」ってドラマのDr. Joe Gannon役が一番知られている模様。2012年に亡くなられたようだけど、サイコとかテレビドラマのスーパーナチュラルとか出たりして、最後の最後まで役者であり続けた素晴らしいお方。の模様。
ではネタバレゾーン入ります。ご注意を。解説はしてないです。ほんとにご注意を。
全体の構成
前半、ベティ(ダイアン)の妄想。後半、ベティ(ダイアン)の過去の回想と現実世界。つまり、現実から逃れたいから妄想の中で自分に都合の良い世界を作っていると。
で、中々抜け出せなくなっちゃっているっていう。夢うつつな状態、という点ではフェデリコフェリーニ監督の「8 1/2」を思い出した。妄想だからね、現実世界の人とか名前とかその辺が入り混じっていて紛らわしいといえば紛らわしいけど。
妄想と現実世界を少し整理すると
妄想 :現実
ベティ :ダイアン
リタ :カミーラ
カミーラ :カミーラとキスする人
ダイアン :ベティ(ウィンキーズのウェイトレス)
名前の混同はこんな感じかなぁ。ココって現実世界でもココだったっけ?アダムの母親だったけど。名前が同じでも妄想世界と現実世界では役回りが違っていたりするからね。
怒り、嫉妬、妬み、恨み、憧れ、愛情、愛憎、憎しみ、後悔
現実世界で感じたこの辺の感情を全て詰め込んでるのが夢の世界。現実に戻るところはクラブシレンシオのイリュージョンショーみたいなやつ。
「まやかしです」
ってはっきり言ってるし、ベティ(ダイアン)はブルブルし始めちゃって現実に戻りたくないよーってなっちゃってるし、家に帰ったらもはやベティ(ダイアン)は消えてるし。
このシーンのちょっと前からリタ(カミーラ)金髪ショートのウィッグつけ始めて、ベティ(ダイアン)とレズり始め、クラブシレンシオから帰ってきてリタ(カミーラ)が1人になった時点で、なるほどね って理解したつもりになってたけど、
全然違った。。。
自分的にはベティは本当にいなくて、ようやく同化して夢から覚めて「ただの夢オチかよ」って言う準備をしていたわけだけども。そんなもんじゃなかったね。ここからが本番だった。
それまでみてきた妄想世界を現実世界とリンクさせながら、真実が何かを暴いていく。すんごい面白いよね。
妄想世界
家で映画を観るときは、映画観ながら思ったことをメモしてるんだけど、それを元に伏線回収していこう。割と最初の方でちゃんと書いてあった。
妄想世界全体
- 金髪の人だけ異質な感じする。明るすぎる。
- 全体的に嘘くさい感じがする。
感覚は間違ってなかった。というかそういう感覚を呼び起こさせるように撮ってるんだろうと思ったら感動した。そんなん撮ってみたいわ。前半の前半は群像劇っぽくブツ切りで撮っているけど、それも意味あったんだなぁ。夢だし、いろんなシーンの繋がりが意図的に繋がらないように撮られているだと思う。
じいさんとばあさん
- 車中でのばあさんとじいさんの笑顔が怖い。
今思えば第三者的な立ち位置というか、「世間」みたいなものなのかなぁと。夢見てハリウッドにきて、実際に話している時には「応援してる」みたいなことを言いつつも、裏では「何言ってんだこいつ」と馬鹿にされているんじゃないか、っていう疑心暗鬼も表しているのかもなぁ。
現実世界の最後でこの老夫婦に追われて自殺に追い込まれるわけだけど。もしかしたらベティ(ダイアン)の家族とかに対する申し訳なさとかも含まれているかもしれない。
ウィンキーズの刑事と男の人、と黒い人
- 怖い。
- 急に出てくんなよ。
完全に演出の話だけど。全然映画の内容関係ないけど。やっぱりここも現実世界で同じようなシーンがあったよね。殺しをお願いするシーン。そこでダンがこっちを見てる。レジのところで。話の内容までは聞かれていないだろうけど、記憶に刷り込まれているわけだ。
映画製作の会議のシーン
- 意味がわからない。
- 個人的な恨みで車を破壊する映画監督。
- 謎。
うん。あれだけじゃ本当わけわからないよね。でもここで倒叙。後からキーワードになる「This is the girl」。
映画業界の裏を映すシーンなわけだけど、実際にはどうかは知らないよ、知らないけど、ベティ(ダイアン)の妄想ではこんなことが行われてるんじゃないか。だからいくら自分が演技がうまくて才能があってもそんな権力者たちによって潰されてるんじゃないか。って思うわけだよね。奥にいる人なんてほんとに絶対権力者だしね。
映画とかでよく目にする「黒幕」感をめちゃめちゃ出しているからね。現実がどうかはわからないけど、そういうところからも妄想だということを表している。
殺し屋のシーン
- わけのわからないシーンばかりが続く。
- ミスばっかりしてもはやドタバタコメディ。
現実世界でもこの人にお願いをしている。つまり、この殺し屋がミスをして失敗していれば良いのに、っていう願いがあったということ。
映画監督の浮気現場目撃シーン
この映画監督アダムにはことごとく嫌なことしか起こらない。嫌なことしか起こらないようにベティ(ダイアン)が妄想していた。こいつがいなければカミーラとはうまくいっていたのに。って思いだね。
ベティ(ダイアン)とリタ(カミーラ)のウィンキーズ店内
- ベティはなんか楽しそう。
- 構っているようで、他人事というか。
- 第三者視点で楽しんでいるみたいな。
この辺から妄想感が漂い始めてるよね。妄想だからなんでもうまくいく。
イリュージョンショーから現実世界へ
ここから先は現実世界と回想シーンになるわけだけど、嫉妬とか怒りと憎しみとかが丸出しになるから怖い。ナオミワッツの演技がすごいなぁと感心した。ここからは妄想シーンの置き換えだから楽しいよね。
ということで
ネタバレゾーンの投げやり感は否めないけど終わります。マルホランドドライブ。これは面白かった。
元ネタのサンセット大通り
現実と妄想の世界なら「8 1/2」
なんかもオススメです。
さて、この前書いた脚本が絶賛されたから撮影の打ち合わせにでもいきますか。
起きる時間だ
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