概要
基本情報
1962年 アメリカ
監督:ロバート・マリガン(Robert Mulligan)
脚本:ホートン・フート(Horton Foote)
原作:ハーパー・リー(Harper Lee)
キャスト:
グレゴリー・ペック(Gregory Peck)/ アティカス・フィンチ
メアリー・バダム(Mary Badham)/ スカウト
フィリップ・アルフォード(Phillip Alford)/ ジェム
ジョン・メグナ(John Megna)/ ディル・ハリス
フランク・オーヴァートン(Frank Overton)/ ヘック・テイト
ローズマリー・マーフィ(Rosemary Murphy)/ モーディ・アトキンソン
ルース・ホワイト(Ruth White)/ デュボース夫人
ブロック・ピーターズ(Brock Peters)/ トム・ロビンソン
エステル・エヴァンス(Estelle Evans)/ キャルパニア
コリン・ウィルコックス(Collin Wilcox)/ メイエラ・バイオレット・ユーエル
ジェームズ・アンダーソン(James Anderson)/ ボブ・ユーエル
ロバート・デュヴァル(Robert Duvall)/ アーサー・ラドリー
キム・スタンリー(Kim Stanley)/ ジーン・ルイーズ・フィンチ
解説・あらすじ
ピューリッツァ賞を受賞したH・リーの『ものまね鳥を殺すには』を劇作家H・フートが脚色、後に「サンセット物語」などの社会派ドラマを多く手掛ける製作パクラ=監督マリガンのコンビが映画化した問題作。不況の風吹く1932年、南部のアラバマ州。幼い息子と娘を抱える弁護士フィンチに、暴行事件で訴えられた黒人トムの弁護の任が下る。だが偏見根強い町の人々は黒人側に付いたフィンチに冷たく当たるのだった……。
批評と受賞歴
13 wins and 16 nominations
受賞
アカデミー主演男優賞(グレゴリー・ペック)
アカデミー脚色賞(ホートン・フート)
アカデミー美術賞
ゴールデングローブ主演男優賞(グレゴリー・ペック)
ゴールデングローブ作曲賞(エルマー・バーンスタイン)
ノミネート
アカデミー作品賞
アカデミー助演女優賞(メアリー・バダム)
アカデミー監督賞
批評
- Rotten Tomatoes:91 % 8.8 / 10
- Roger Ebert:2.5 / 4
- IMDb:8.3 / 10
いろんな観点から
本作、町山さんが解説をしてくれていて、その中でも話していたけれど、なかなかいろんなジャンルをまたがって、それでも1つの作品として完成されているというとんでもない作品。
上記のあらすじでは、容疑者となった黒人男性、そして彼を弁護するアティカスへの差別描く、としか書いてないから、父の話をメインにした人種差別批判の話のように見える。
確かに父アティカスの物語であり、人種差別を訴える話というのは間違いないけれど、彼の息子と娘の成長物語でもある。映画の序盤では、もっと児童文学の冒険譚のようなノリ。子供2人とその友達が隣人の噂話をして、様子を探る場面が描かれる。
でも、その噂話うんぬんのくだりがちょっとホラーというか、怪談というか、奇談というか、そんな感じ。町山さんの解説では、南部ゴシック、ゴシックホラーのような、と言っていた。
南部ゴシックホラーってのは、人里離れた村で起こる怪奇現象のような事件を描いた作品、と僕は勝手にイメージしている。アメリカ南部が舞台のゴシック映画、みたいな感じ。南部ではメインの産業が奴隷制度に頼っていたこともあって、黒人が多くいて、彼らの元々の土着の文化、宗教とか、信仰とか、言い伝えとか、都市伝説とか、そういったものとゴシックの感じを融合させたのが、南部ゴシックホラー、と僕は勝手にイメージしている。
ということで、最初はアドベンチャーのような話、そこから隣人の噂話の南部ゴシックホラーのような話、それからあらすじにもある法廷ドラマ、それに含まれる人種差別を描く社会派ドラマ、そしてそんな経験を通して成長する子供達を描くビルディングスロマン。書き並べると一体何個ぶっこむんだと思うけれど、それがなんとも良い感じにまとまって素晴らしい作品に仕上がっている。
公開された年だったり、その内容からよく言われるのは、アメリカの歴史を知る上で超重要な位置付けにいる作品だということ。その辺の予備知識含め、以下、ネタバレありつつ小ネタ挟みつつ参ります。
時代背景と原作
本作の公開年は1962年。この付近のアメリカでは何が起こっていたかと言うと、1955年のローザパークスさんの事件をきっかけに起こった公民権運動の真っ最中。詳細は省くけど、結構な闘争が起こっていた。映画の内容が内容なだけに、南部での話ではあるものの、南部での撮影はできないだろうということで、ハリウッドにセットを作って撮影したらしい。
原作はハーパー・リーの「ものまね鳥を殺すこと(To Kill a Mockingbird)」。映画の舞台も1930年代だったけど、原作も、実際に彼女が10歳くらいだった時に体験した内容をベースに書かれている。つまり、スカウト = ハーパーリー、ということ。
ちなみに、夏の間にやってくる隣人の少年ディルは、トルーマン・カポーティ(Truman Capote)がモデルらしく、本当に幼馴染だったとのこと。トルーマンカポーティが「冷血」を書く上でハーパーリーと一緒に取材をしている。
2015年、55年ぶりのアラバマ物語の続編が出版された。タイトルは「Go Set a Watchman」、内容は、スカウトが20年後に父の元にやって来る話、とのこと。続編となっているけど、実際はアラバマ物語より前の1950年代に書かれたものをベースにしているらしい。
それは置いといて、この時期のこの内容、と言うことでアメリカの歴史を知る上でも重要とされている。
評価的な話
そんな時期にこんな内容を描く本作だったけど、公開当時から大評判になって興行収入的にも予算の10倍を叩き出すほど、かなり評価され、今でも最高傑作の一つと言われることもしばしば。
各種ランキング系にも上げられている。
AFIの100シリーズ。
- アメリカ映画ベスト100:34
- アメリカ映画ベスト100(10周年エディション):25
- アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100:1(ヒーロー)
- アメリカ映画の名セリフベスト100:ノミネート
- 映画音楽ベスト100:17
- 感動の映画ベスト100:2
- 法廷ドラマ映画トップ10:1
とAFIだけでこんな感じ。他のランキングは見てないけど、多分何かしら入っているでしょ。
演じた人
アティカスフィンチ役
本作のテーマ以外にも、アカデミー主演男優賞をグレゴリーペックがとったことからも分かるように、グレゴリーペックの演技を賞賛する人も大多数。
最初にアティカスが登場するシーンの撮影時、ハーパーリーも現場にいて、アティカスを演じるグレゴリーペックを見て涙を流した。あまりにも自分の父親と似ていて感動したらしい。ハーパーリーや共演者は、「アティカスフィンチはグレゴリーペック自身だ」と言うことをよく言っている。
アティカスを演じる上で、ハーパーリーから彼女の父の形見である時計を受け取り、身につけていた。撮影後、ハーパーリーはグレゴリーペックにその時計を譲ったんだけど、グレゴリーペックがアカデミー賞に出席した際には、その時計を身につけて受賞をしている。
そんな人格者だったグレゴリーペックが演じるからこそ、見る人を魅了して、感動させる。実際にグレゴリーペックは何度も「私の人生を変えました」と観た人から言われているとのこと。
スカウトとジェム役
スカウトを演じたメアリーバダムは、南部出身ということで選ばれたらしい。そして彼女はジョン・バダム(John Badham)監督の妹らしい。
ジェム役のフィリップアルフォードの方は、アラバマで役者ではなくビジネスマンとして成功したという噂。ちなみにオーディションに行きたくなかったみたいだけど、母親から学校休めるよ、って言われて即オーディションを決意。
隣人ブー役
実は、ロバートデュヴァルが演じているという。これが映画デビューだった。まだ毛がふさふさの頃、って町山さんが言ってた。
大人の目線、子供の目線
劇中の裁判の結果、結局トムは有罪となった。原作者のハーパーリーの父が担当した実際の事件でも、努力はしたけど結果的には弁護した黒人の人は有罪判決を受けたとのこと。黒人であるというだけで容疑をかけられ、罪をなすりつけられ、白人の陪審員しかいないから、正当な判断が下されない。
そんな黒人への偏見だったり、先入観、「そういうものだ」という風潮だったり、その場に根付いている価値観。それが当たり前のこととして存在していたと考えると恐ろしい。あと、本作をみて改めて気づいたけど、白人女性が黒人に好意を寄せること自体も、「恥ずかしいもの」として当時は捉えられていたんだなぁと。
アティカスは完全に徳のある人物として描かれる。アメリカの良心を体現したキャラクターとして。そんなアティカスから見た人種差別への考え、人種差別が行われている環境、それが許されている実情、に対する物言いは、法廷シーンの長いスピーチで聞ける。大人から見た社会。
対してスカウトとジェムは2階からその様子を見守っていた。黒人トムがどういう状況に置かれていて、どういう目で周りから見られているか、それを肌で感じる。法廷シーンに限らず、白人が集団でリンチしに行く様子すら見ている。こういう体験を通して、社会では何が共通の認識として持たれているのか、を学んでいくことになる。それまではただ無邪気に遊んでいただけなのに。
子供の純粋な視点から見た法廷劇、大人の偏見やら身勝手さ、もっと言えば、大人の世界・現実の嫌な部分だったり欠点を子供が理解し始めていく様子を観れるのもまた面白い。
「アティカス」というキャラクターがAFIのランキングでヒーローの1位に選ばれている、というのもなかなか興味深いね。実際はこういうアティカスのような人物が理想で、やっぱり正しいものなのだと思われているんじゃないかと思う。
子供が学ぶこと、大人が学ぶこと。世界(現実、大人の世界)の嫌な不備、欠点を子供が理解し始める。
ものまね鳥を殺すこと
人種差別を描いたということで、アメリカ人にとって、アメリカの歴史にとって超重要で偉大な作品だと言うのも間違いない。それにプラスして「倫理観」とかの普遍的に心を揺さぶるものが本作にはある。
題名の “To Kill a Mockingbird” で表されるように、「マネシツグミは殺してはいけないよ」の言葉。害のないものに対して、無実の者に対して手を加えること、というは許されるのか。その害のない者、無実の者は黒人のトムであり、隣人のブーである。ブーが言葉通りの意味で「無実」とするのかどうかも考えどころではある。
ラストシーンで子供二人が襲われるけど、その結末をスカウトはバッチリ目撃している。知っている人からすれば、「善人が悪人を倒した」ことになる。でも真実を言ってしまえば、その真実によって被害を受けたり破滅することにもなる。スカウト選択した「嘘」。嘘自体が良いか悪いかは置いといて、善悪の判断含め、自分がどういう倫理観を持つのか、それを考えることになる。時代と状況が違えば誰が英雄になるかも変わってくる、と。
その辺をより強調、掘り下げるのに、途中の描写で狂犬病にかかった犬を射殺するシーンがある。これがなかなか。狂犬病になった犬は暴れまわって、危険で、危害を加える可能性は確かにある。でも、その危険性がある犬なら良くて、ものまね鳥はダメなの?と。この辺を見て、色々と考えさせられる。
何が良くて何がいけないのか。
どうでも良いけど、「ものまね鳥」で調べてたら、コトドリというものまね鳥が出てきて聞いたら想像以上にやばかった。
ということで
これは人生で一度は観るべき映画。
名作といえば市民ケーン、
真実が誰かを破滅させる、で思い出したのは、アメリカンバンダル
なんかもおすすめです。
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