概要
基本情報
1985年 イギリス
監督:
テリー・ギリアム(Terry Gilliam)
脚本:
テリー・ギリアム(Terry Gilliam)
トム・ストッパード(Tom Stoppard)
チャールズ・マッケオン(Charles McKeown)
キャスト:
ジョナサン・プライス(Jonathan Pryce)/ サム・ラウリー
キム・グライスト(Kim Greist)/ ジル・レイトン
ロバート・デ・ニーロ(Robert De Niro)/ アーチボルド・”ハリー”・タトル
キャサリン・ヘルモンド(Katherine Helmond)/ アイダ・ラウリー夫人
イアン・ホルム(Ian Holm)/ カーツマン氏
ボブ・ホスキンス(Bob Hoskins)/ スプーア
マイケル・ペイリン(Michael Palin)/ ジャック・リント
イアン・リチャードソン(Ian Richardson)/ ウォーレン氏
ピーター・ヴォーン(Peter Vaughan)/ ヘルプマン氏
チャールズ・マッケオン(Charles McKeown)/ ハーヴェイ・ライム
ジム・ブロードベント(Jim Broadbent)/ ジャフィ医師
バーバラ・ヒックス(Barbara Hicks)/ アルマ・テレン夫人
キャスリン・ポグソン(Kathryn Pogson)/ シャーリー
ブライアン・プリングル(Bryan Pringle)/ スパイロ
ブライアン・ミラー(Bryan Miller)/ アーチボルド・バトル
シーラ・リード(Sheila Reid)/ ヴェロニカ・バトル
デリック・オコナー(Derrick O’Connor)/ ダウザー
ゴーデン・ケイ(Gorden Kaye)/ 守衛
マートル・デヴェニッシュ(Myrtle Devenish)/ タイピスト
カメオ:
テリーギリアム(タバコを吸っている人)
ホリー・ギリアム(ギリアムの娘)
解説・あらすじ
コンピュータによる国民管理が徹底した仮想国ブラジル。その情報管理局で、ある役人が叩き落としたハエによって、コンピュータ情報の一部が壊れてしまう。そしてその影響は、善良な靴職人をテロリストと誤認逮捕させる結果を生み出すが……。「12モンキーズ」のテリー・ギリアム監督による管理社会を痛烈に皮肉った、ファンタジックなSF近未来映画。
批評と受賞歴
8 wins and 5 nominations
ノミネート
アカデミー脚本賞(テリー・ギリアム、トム・ストッパード、チャールズ・マッケオン)
アカデミー美術賞(ノーマン・ガーウッド、マギー・グレー)
批評
- Rotten Tomatoes:98 % 8.7 / 10
- Roger Ebert:2 / 4
- Metascore:88
- IMDb:8.0 / 10
夢と幻想が交錯する
おかしくて、かなしく、そして夢と幻想が交錯する新次元映像!
って映画のポスター(?)に書いてあった。情報局という機関を描いていたはずが、急に夢の世界へ飛んだり、戻ってきたり。そのうち幻想が占めるようになってきて。。
不思議で、奇妙で、ぼんやりしてて、でもゾッとするような感じ。そんな現実と夢と幻想の世界で描くのは、全体主義的な官僚制の批判。
徹底された管理社会 VS 個人
そのテーマも面白い。皮肉った内容とその映像表現をご堪能ください。
ということで、以下、小ネタとネタバレありで参ります。ご注意を。
全体主義的ディストピア、の大元
本作で描かれた、徹底的に管理された社会。監督のテリーギリアムは本作を含め、3部作ということにした。
- 「バンデットQ(Time Bandits)」(1981)
- 「未来世紀ブラジル(Brazil)」(1985)
- 「バロン(The Adventures of Baron Munchausen)」(1989)
共通テーマは
「ぶざまなほど統制された人間社会の狂気と、手段を選ばずそこから逃げ出したいという欲求」
“craziness of our awkwardly ordered society and the desire to escape it through whatever means possible.”
ってwikipediaに書いてあった。バンデッドQは「少年」の視点、未来世紀ブラジルは「30代の男」の視点、バロンは「年配の男」からの視点で描いているとのこと。
本作で描かれた全体主義的ディストピアの世界は、ジョージ・オーウェル(George Orwell)の小説「1984年(Nineteen Eighty-Four)」がよく知られていて、テリーギリアムは未来世紀ブラジルについて、「1984年」にインスパイアされて、それを今日的な視点から未来を描いたものだと言っている。
「1984年」は1949年刊行。反全体主義、反集産主義のバイブルとなったり、政府による監視や検閲や権威主義を批判する西側諸国の反体制派も同様にこの小説を引用する。この小説に登場するような監視管理社会を「オーウェリアン(Orwellian)」と呼ばれるようになった。
ってwikipediaに書いてあった。
「1984年」はかなりの広範囲に影響を与えていて、この小説を語源とする造語が結構あったり、そのプロットやらコンセプトは映画や音楽やその他の小説でも使われている。「1984」って聞いて思い浮かぶであろう村上春樹の「1Q84」も「1984年」を土台に書いているとのこと。
バンデットQ、未来世紀ブラジル、バロンを3部作にする一方で、2013年には、ディストピアサタイア3部作の一作目だ、ともテリーギリアムは言っている。
- 「未来世紀ブラジル(Brazil)」(1985)
- 「12モンキーズ(Twelve Monkeys)」(1996)
- 「ゼロの未来(The Zero Theorem)」(2013)
らしいです。
タイトル “Brazil”
というように、「1984年」をベースにして、未来世紀ブラジルでも同様の世界観が作られていると。そして製作中の映画タイトルは「1984 1/2」。1/2の意味は1984年をベースにしていること、現実と妄想という意味ではフェデリコフェリーニ監督の「8 1/2」からも取っているとかいないとか。実際テリーギリアムはフェデリコフェリーニの撮り方に影響を受けているようだし。
製作中のタイトルか、もしくは本物のタイトル決め時点での候補かは分からないけど、以下のようなタイトルもあった模様。
- 1984 ½
- The Ministry
- The Ministry of Torture
- How I Learned to Live with the System—So Far
- So That’s Why the Bourgeoisie Sucks
こういったタイトルが考えられた結果、最終的につけられたタイトルはご存知の通り、「Brazil」。これは劇中繰り返し使われているテーマソング、アリ・バホーゾ(Ary Barroso)作曲の “Aquarela do Brasil“、通称 Brazil から取られている。
Aquarela do Brasilの意味は「ブラジルの水彩画」。一説では、テリーギリアムがビーチに行った時に、あんまり天気が良くなかったにも関わらず、隣に座った男はそんな災難にはお構い無しに音楽を聴き始めた。その曲がこの曲で、本作のテーマとなり、音楽となった、と。
画の作りと影響
影響を受けているもの
上記でも触れた災難に立ち向かう(もしくは逃げ出す)、感じ。色々あってからの、あのエンディング。その予想外、意外な結末は、アンブローズ・ビアス(Ambrose Bierce)の「アウルクリーク橋の出来事(An Occurrence at Owl Creek Bridge)」にインスパイアされている。
ちなみにアンブローズ・ビアスの別の作品「月明かりの道」は、黒澤監督の「羅生門」に影響を与えたと言われている。さらにちなみに、本作の中でサムライが登場するけど、テリーギリアムは黒澤明監督作品が好きだったから、という説と、そのサムライの中身がサムだったことから、「 Sam, you are i」を早く言うとサムライに聞こえるから、という説といくつかある。
羅生門の記事へ
「1984年」を土台にしているということもあってか、小説が出された1940年代に流行ったフィルムノワールを参考にしている。本作でチャールズマッケオンが演じるハーヴェイライムは「第三の男(The Third Man)」の登場人物、ハリー・ライムからの引用だと言われている。
その他インスパイアされているものとして、フリッツ・ラング(Fritz Fritz)のメトロポリス、Mから、ちょっと変わった機械については、イギリスのイラストレーター、W・ヒース・ロビンソン(W. Heath Robinson)の作品を参考にしているとのこと。
こんな感じ。
影響を与えているもの
初期のストーリーを考える段階で、チャールズ・アルヴァーソン(Charles Alverson)も共同で書いていた。2人が前提に考えた世界観は
「未来でも過去でもない、でもそのどちらでもあるような」世界。
その前提の世界観にプラスして、ベースに「1984年」があるから、レトロな未来、昔の人が思い描いた未来像を描くレトロフューチャーと呼ばれる形になった。その感じは、ジャン=ピエール・ジュネ(Jean-Pierre Jeunet)、マルク・キャロ(Marc Caro)の作品に影響を与えている。そして、レトロフューチャーから派生する「スチームパンク」にも。
1990年代の映画に多く、例を挙げると、
- デリカテッセン(Delicatessen) / ジャンピエールジュネ、マルクキャロ
- ロスト・チルドレン(La Cité des Enfants Perdus) / ジャンピエールジュネ、マルクキャロ
- 未来は今(The Hudsucker Proxy)/ コーエン兄弟
- ダークシティ(Dark City)/ アレックスプロヤス
とか。
あとはティムバートンのバットマンで、最初にデザインをやる予定だったアントンファースト(Anton Furst)は未来世紀ブラジルのルックを勉強してたり、ダーレンアロノフスキーの「π」の主人公の部屋とか、ザックスナイダーのエンジェルウォーズとか。細かいものを含めるとかなり多い。
あんまり関係ないけど、ジャックが拷問の時に使ったマスクは、グリーンデイのBasket CaseのPVにも出てくる。「バスケットケース」という意味も考えると影響を受けていたりしていそう。
カルト映画として
本作はヨーロッパでは成功したけど、アメリカでは劇場の興行収入的には成功しなかった。でも、一部の層からは強い支持を受けるカルト映画となり、Entertainment Weekly の Top 50 Cult Movies of All-Time の13番目にランクインしている。
その他のランキング系は
- Empire Magazine’s 500 Greatest Films of All Time:83
- Total Film’s 50 Greatest British Movies Ever:20
- BFI Top 100 British films:54
AFIの100年シリーズにも、ノミネートはされている模様。
公開までの道
アメリカでの興行収入的な失敗は、ラストシーンが影響したのかもしれない。テリーギリアムが撮ったオリジナルのエンディングは、ペシミスティックなものだったけど、スタジオ側は、受け入れられやすいハッピーエンドで公開したかった。
だからテリーギリアムとユニヴァーサルピクチャーズのシドニー・シェーンバーグ(Sidney Sheinberg)は、そのラストシーンを巡って、結構なバトルを繰り広げていた模様。
こんなメッセージも送っている。
“Dear Sid Sheinberg. When are you going to release my film Brazil?”
その辺の攻防の詳細については、ジャック・マシューズ(Jack Matthews)が書いた “The Battle for Brazil: Terry Gilliam v. Universal Pictures”(1987)という本で描かれている。
テリーギリアムはどうしたかと言うと、ロスのいくつかの批評家協会に持っていった。そしたらこれは今年のベスト映画だ、なんて言われて、公開することにしたらしい。
この攻防の面白いところは、本作の内容が反体制とか管理する側への批判という意味合いもあるというところ。個人の主張は無視してシドが権力を使い、映画の本来の意味合いを捻じ曲げようとした、という行為によって、現実と映画がリンクする ことになる。余計に皮肉が込められることになる。
映画内では、サムロウリーという個人は負けたけど、現実世界ではギリアムが勝ちましたと。これでようやく本当に映画が完成したという感じだね。
気持ち悪い世界
劇中、情報局は絶対のものとして君臨している。絶対にミスは犯さないし、局によって世の中が回っていると。でも、統制されているようで、全く統制されていなかった。お互いの機関は作業が細分化されて一応は共存してはいるけど、その依存度が悪影響して足の引っ張り合いをしてうまく機能していない。
「別の窓口に行ってください」は日本だけではなかったらしい。別の窓口行ったところで、どっかの押印とかが必要だったりする。そしてミスは誰か他人のせいにして、仕組まれたものだと考える。そんな批判は序の口として、そういう見せかけの統制された社会を徹底的に批判している。
目を引くものとして、変わった設備やらサービスも。全自動でやってくれるようで、機能的に不十分だったり、扱いにくかったり、修理に手間がかかったり。うまく回っている時は良いけど、一つ崩れると一気に崩壊する。そして修理にはすぐに対応できない役人を介入させて、無駄な作業が多く時間がかかる。
個人的に思わず笑ってしまったのが、メッセージの配達サービス。歌と踊り付きで配信してくれるやつ。返信する時に歌おうとしてたサムに思わず笑ってしまった。でも、その表現もね。無駄なサービスばかり増やして、料金を上げて、それで本来の目的を果たせなかったら意味がない。
レストランでは注文を番号でしか受け付けず、ペースト状の不味そうなものが出てくる。そこで爆発が起こっても、音楽はなり続け、上流階級の人たちは御構い無しで話を続ける。何もせずに。
個人的には、夢の中で出てきたジルをあそこまで追っかけまくったサムも結構気持ち悪かったけど。挙げ句の果てにあの妄想の中の「死人とセックスしたい?」とくる。とんだ変態ストーカー野郎だな。でも、夢に出てきた人がちょっと気になっちゃうのは分からなくもない。
いろんなサイトでも言及されているけど、かなり象徴的に出てくるのは、何度も登場するダクト。この辺に関わってタトルも登場してくるわけだしね。詳細は解説サイトを見てください。
それから所々、細かい皮肉の表現があるのがまた。クリスマスプレゼント何が良いって子供に聞いたら「クレジットカード」とか。妙にリアルな感じもするのが本作の怖いところでもある。
あー、ほんと、正気じゃない 。
ということで
未来世紀ブラジルでした。
妄想系、夢と現実系なら
マルホランドドライブとか、
コングレス未来学会議とか
インセプション、8 1/2
なんかもおすすめです。
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